某鉄道会社にて、駅員→車掌→運転士……というコースの「運輸現業職」で働く鉄道マン。ブログでは、「鉄道会社への就職・転職で役立つ知識」「運転士になるまでの道のり」「鉄道雑学や裏話」「鉄道ニュースの解説」などのテーマで記事を書いています。転職経験はありませんが、この記事や弊ブログが、転職で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
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駅員や乗務員の仕事は何がきつい?鉄道マンが自身の経験から解説
少し古い映画ですが、『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』という作品(2010年公開)をご存じでしょうか?
ストーリーを簡単に説明しておくと、東京で働く49歳のサラリーマンが退職し、地元・島根に帰って子どものころから夢だった電車の運転士を目指す……というもの。
その過程での人間ドラマを描いた作品です。
さてこの映画、「異業種から鉄道会社への転職」を描いたものですが、49歳の未経験者が運転士候補生として採用される。
これ、現実世界でありうる話なのでしょうか?
私自身は転職経験はありませんが、某鉄道会社で現役鉄道マンとして働いているので、多少は業界の転職事情を知っています。
そのため、「さすがに49歳では無理でしょ。映画の中だけの話」と思っていました。
ところが……数年後、同業他社にお勤めの方から、「RAILWAYSみたいな転職話は実際にウチの会社であった」と教えていただいてビックリ!
しかも、その方は50歳を超えていたというので二度ビックリ!
こういう形で鉄道会社に転職する人が、本当にいるのですね。
異業種から鉄道会社への転職はじゅうぶん可能!
この記事を読んでいる方は、多少なりとも鉄道会社への転職に興味があるかと思います。
中には、「新卒時は鉄道会社に入社できず、別の仕事に就いた。でも、鉄道で働く夢をあきらめられない」という方がいるかもしれません。
鉄道会社への転職を考えている方は、映画『RAILWAYS』のような話が実際にあると知ると、少し安心するのではないでしょうか。
まあ『RAILWAYS』の例はいささか特殊だとしても、20~30代での中途採用は珍しくないので、新卒で就職できなかったとしても、夢をあきらめる必要などまったくありません。
異業種から鉄道へ転職する場合、そのパターンは以下の二つです。
●パターン1
駅員(契約社員)として入社。
数年後、車掌(乗務員)への登用時に正社員として採用される。
→大手鉄道会社の中途採用は、このパターンが多いです。
●パターン2
正社員として採用され、入社後わりとすぐに運転士の養成教育を受ける。
したがって、入社1年後くらいには運転士としてハンドルを握っている。
→地方の中小私鉄や第三セクター鉄道では、こういう採用形態も存在するようです。
映画『RAILWAYS』はこちらのパターンですね。
もっとも、中小・三セクは採用数自体が少ないので、パターン2は稀。
現実的なのはパターン1ということになります。
「鉄道の仕事はきつい」というイメージは本当?
「異業種から鉄道への転職」という道が開かれているのを知って、安心されたと思います。
さて、次に不安になるのは、「鉄道という仕事のきつさ」ではないでしょうか?
「鉄道の仕事はきついイメージがある。自分に務まるのか? 耐えられるか?」
駅員や乗務員(車掌や運転士)は泊まりの仕事が基本なので、勤務形態が夜勤を含む不規則なものであることは、よく知られています。
これで身体を壊したり、プライベートに支障が出たりしないか?
若い人でないと、体力的に務まらないのではないか?
また、最近は鉄道各社が「終電繰り上げ」を発表していますが、これは「夜間工事の時間を確保するため」という狙いがあります。
終電繰り上げに関する報道で、夜間工事の作業員が過酷な労働に従事していることが、世間にも広く知られました。
これらの情報から「鉄道の仕事はきつそう」とイメージし、鉄道会社への転職を目指す方が、二の足を踏むのも無理はないと思います。
実際、鉄道の仕事はきついのでしょうか?
結論を言えば、鉄道の仕事には、きつい点が多々あります。
いや、世の中ラクな仕事などありませんから、私としても「きついよ」と申し上げるしかないのですが……。
それはさておき、鉄道の仕事はどんな点がきついのか?
私自身の経験や、周りで起きたことをもとに、具体例を紹介していきましょう。
鉄道の仕事できつい点とは?経験者の筆者が挙げる3点
お断りしておきますが、私は、駅員→車掌→運転士……というコースに代表される「運輸系統の現業職」で働いています。
これから紹介する内容は、電気や保線などの「技術系統の現業職」や、本社勤務の「総合職」には原則当てはまらないので、ご注意ください。
さて、現役鉄道マンである私が、鉄道の仕事(運輸現業職)できついと感じる点。
それは以下の3つです。
- 24時間・365日のシフト制は身体・精神の両面で負担
- オフのときでも体調管理に気を遣う
- 勤務時間が長いので人間関係がこじれると苦痛
きつい点①24時間・365日のシフト制は身体・精神の両面で負担
運輸現業職のきつい点として、「24時間・365日のシフト制」は、やはり挙げないわけにはいかないでしょう。
具体的には、「泊まり勤務の仮眠時間が短い」と「盆や正月でも仕事がある」のが大変です。
5時間未満の仮眠で昼前まで働くのは身体がシンドイ
私は入社から現在に至るまで、ずっと泊まり勤務の職種で働いています。
駅員から始まり、車掌、運転士、そして指令員……。
どの職種でも、「夜間の休憩時間」は5時間前後が相場です。
注意してほしいのは「仮眠時間」が5時間ではないこと。
あくまでも「休憩時間」ですから、シャワーを浴びたり、起きてから身支度を整えたりする時間を差し引くと、「実際の仮眠時間」は5時間ありません。
ちなみに、女性だと化粧する時間も必要なので、さらに仮眠時間が減ります。
乗務員だと、どのシフトを担当するかで夜間の休憩時間が変わりますが、きついケースだと、4時間半くらいしか休めないことも。
睡眠不足の状態で、朝ラッシュ~昼前までの乗務をソツなくこなすのは、慣れるまでは相当シンドイです。
私も初めの頃は、家に帰ると「もうダメ……」とすぐにバタンキューしていました。
大型連休中に働くのは精神的に意外ときつい
運輸現業職の特徴は、ゴールデンウィークやお盆、年末年始でも仕事があるところ。
入社してくる人間は、もちろんそれを承知のうえで入社してきます。
が、承知済にもかかわらず、大型連休中に仕事をするのは、実際に経験すると意外にきついのです。
いや、身体はきつくないのですが、精神的にくるんですよ。
たとえば年末年始、家族や親戚が集まって宴会をしているのに、自分だけ参加できないことはザラ。
大晦日の夜、スカスカの列車を運転しながら、「みんなは今頃、美味いもん食ってのんびりしてるんだろうなぁ」とむなしくなる。
元日の朝、やはりスカスカの始発列車を運転しながら、「なんで俺、正月からお客さんが全然乗ってない列車を運転してるんだろ……」と思ったこともあります。
テレビで「今回のゴールデンウィークは○連休!」などと騒いでいるのを見ても、独身のときは何も思いませんでした。
が、結婚して家族ができると、ちょっと感じ方が違ってきます。
運輸現業職は大きな連休がない仕事ですから、旅行も簡単ではありません。
せいぜい近場に1泊2日。
妻や子どもに申し訳ないなあと思うことも、正直あります。
※
以上のように、身体・精神の両面できついのが「365日・24時間のシフト制」の特徴です。
きつい点②オフのときでも体調管理に気を遣う
運輸現業職のきつい点・その2。
オフのときも体調管理に気を遣わなければいけないところです。
別の言い方をすると、家でも緊張状態を強いられます。
視力・聴力はもちろん血圧や血糖値にも注意が必要
「運転士は一定以上の視力が求められる」ということは、よく知られています。
スマホなどの普及によって、昔よりも視力が悪化しやすい環境ですから、かなり気をつける必要があります。
運転士は半年に一度、視力検査を受けますが、視力がギリギリのために検査を恐れる運転士は少なくありません。
また、運転士に求められる身体要件は、視力だけではありません。
聴力にも必要基準があります。
イヤホンで大音量の音楽を聞くなど、聴力を悪化させる行動はNG。
ちなみに、高齢の運転士が身体検査を受けると、視力ではなく聴力で引っ掛かるケースも多いです。
その他、ウチの会社では血圧や血糖値にも基準値が定められ、高すぎると乗務できません。
高血圧や高血糖が原因で運転士を下ろされた事例は、実際に見たことがあります。
暴飲暴食は御法度です。
体調不良で休むと周りの顰蹙を買う
体調管理といえば、うかつに風邪もひけません。
運輸現業職はシフト制です。
乗務員でいえば、「どの列車を誰が担当するか」が厳密に割り振られています。
そのため、一日に必要な人数が一人でも欠けると、列車の運行が成立しません。
「一日に必要な運転士は100人」と決まっていたら、それを99人で回すことはできないのです。
穴があいたら、必ず穴埋め要員が必要になります。
事務系のデスクワークなら、今日休んだ人の分を他の人でカバーすることもできますが、鉄道の現場でそれはできません。
シフトに穴があいたときの“穴埋め手配”は大変です。
管理者は、急いで代わりの人を探さなければいけません。
私も乗務員時代、「すまん! 急だけど、今日これから出勤できないか?」と頼まれたことが何度かあります。
代わりの人を探す大変さは知っていたので、全部断らずに引き受けましたが、楽しみにしていたイベントに行けなくなったことも。
その他、管理者側には、勤務表の組み直しや勤怠管理システムの入力変更などの事務作業も発生します。
こういう背景があるので、体調不良でシフトに穴をあけると、周囲からかなり顰蹙を買います。
年に二回も体調不良で休めば、「まったくコイツは……」と思われ、「体調管理もロクにできない奴」の烙印を押されてしまいます(もちろん、本人の前では口にしませんが)。
風邪などをひかないよう、普段の生活から体調管理には非常に気を遣うのです。
アルコールチェックがあるので好き放題お酒が飲めない
あとは近年の業界事情として、アルコールに厳しくなった点があります。
2019年に省令が改正され、運転士は乗務前にアルコール検知器で検査を行うことが義務化されました。
もちろん、前日によほど深酒しない限り、乗務前の検査で引っ掛かることはないです。
が、検査がある以上は、「飲みすぎて引っ掛からないように」とセーブを意識しながら飲むことになります。
そういう気持ちで飲むのは、お酒好きな人にはつまらないかもしれません。
※
以上のように、「オフのときでも体調管理に気を遣わねばならない」という点は、なかなか大変です。
別の言い方をすると、オフのときでも、本当の意味で仕事から解放されることはないわけです。
きつい点③勤務時間が長いので人間関係がこじれると苦痛
鉄道のきついところを長々と説明してきました。
「もういいよ」と思う人もいるでしょうが、きつい点はまだあります。
運輸現業職のきつい点・その3。
勤務時間が長いので、人間関係がうまくいかないと、苦痛の時間も長い。
「自分とウマが合わない人」は、職場に必ずいるものです。
もちろん仕事ですから、ウマが合わない人とも波風立てないよう、我慢してやっていく必要があります。
朝出勤して夕方に帰る仕事なら、ウマが合わない人と顔を合わせる時間は、そう長くありません。
我慢が必要なのは、9時間前後という感じでしょう。
ウマが合わない人との泊まり勤務は本当に憂鬱
しかし、鉄道は泊まり勤務が基本。
たとえば、駅員ならば24時間交代制です。
つまり、ウマが合わない人と一緒になった場合、丸一日の我慢を強いられるわけです。
シフト制である運輸現業職は、月単位で勤務表が作成されます。
勤務表が発表されたとき、真っ先に確認するのは「誰と一緒に泊まるか?」です。
駅員時代、勤務表を見て、「来月○日の泊まり勤務は○○さんと一緒かぁ」と憂鬱になった経験は私にもあります。
乗務員は「一人仕事」になるまでの道のりが大変
「乗務員(車掌や運転士)になれば一人で仕事をするから、そういう煩わしさから解放されるのでは?」
確かに乗務員は一人で仕事をする時間が多いので、人間関係はラクです。
しかし実は、そこに辿り着くまでが大変なのです。
みなさんは、鉄道会社で乗務員になるまでのステップをご存知でしょうか?
簡単に言うと、「学科講習→実地講習」という二段階です。
まず学科講習ですが、会社の養成所で寮生活を送りながら受講します。
寮生活とは、すなわち朝から晩まで集団生活。
この集団生活に馴染めず、苦しい思いをする研修生がいます。
学科講習は、車掌研修の場合で1ヶ月ほど、運転士研修だと3~4ヶ月程度。
これだけの期間、仕事を終えて家に帰るという“逃げ場”がないのです。
養成所を卒業して実地講習、すなわち「車掌見習い」「運転士見習い」になっても、人間関係は楽ではありません。
見習生は、指導員(師匠)と一緒に乗務して仕事を教わりますが、この指導員とソリが合わなかったりすると大変なことになります。
仕事中は、出勤から退勤までずっとくっついて行動するわけですから、関係がうまくいかないときの精神的苦痛が大きい。
見習い乗務の期間中に、見習生が脱落することが稀にあります。
もちろん、技術的な面が原因のこともありますが、指導員との人間関係がうまくいかずに破綻したケースも、実際に見たことがあります。
※
以上のように、人間関係がうまくいかないときに、我慢を強いられる時間が長いのは、鉄道のきつい点でしょう。
仕事がきつくて辞めるケースは少ない。ではなぜ退職するのか?
- 24時間・365日のシフト制は身体・精神の両面で負担
- オフのときでも体調管理に気を遣う
- 勤務時間が長いので人間関係がこじれると苦痛
以上三点が、私の経験した「きついと思う点」です。
鉄道会社への転職を考えている方に、少し不安を感じさせてしまったかもしれません。
「自分に耐えられるだろうか? 辞めずにやっていけるだろうか?」
しかし、安心してください。
実は、ここまで説明したきつい点が原因で退職する人は、あまりいません。
別の言い方をすると、いろいろきつい点はあれど、結局のところ大半の社員は耐えられるということです。
たとえば、仮眠時間が少ない泊まり勤務も、そのうち身体が慣れます。
慣れてくると、夜勤明けでそのまま遊びや飲みに行くこともできるようになってきます。
オフで体調管理を強いられる点も、逆に言えば、健康な身体づくりに役立ちます。
お酒でいえば、泊まり勤務という仕事の特性上、必ず「飲まない日」があるので、肝臓障害やアルコール依存症になる可能性は低いです。
では、きつい点に耐えられる(慣れる)のであれば、鉄道会社を退職する人は、何が原因で仕事を辞めるのでしょうか?
ここからは、その話をしていきます。
それを知ることで、自分が鉄道の仕事に向いているかどうかを判断することもできます。
退職者全員に細かく話を聞いたわけではないですし、あくまで私が見てきた範囲にすぎませんが、退職理由で多いのは、どうも以下の二点な気がします。
- ルーチンワークに嫌気が差す
- 「若いから」という理由で昇進・昇給できない
ルーチンワークに嫌気が差す
まず、退職理由その1。
ルーチンワークに嫌気が差して辞める。
鉄道という仕事の特性上、現場がルーチンワークで動いていくのは仕方ありません。
たとえば運転士だと、極端な言い方をすれば、信号を確認して列車を動かし、そして停める。
その繰り返しです(運転の奥深さがわかってくると非常に楽しいのですが)。
が、ルーチンワークの日々がつまらないと感じたり、疑問を持ったりする人は少なくないようです。
「毎日同じ作業ばかりで飽きた」
「現在の仕事は、自分のスキルやキャリアの向上につながっているのだろうか?」
「もっと他に、自分の力を活かせる会社があるのでは」
こんな感じで仕事への熱意を失い、退職に至るわけです。
「若いから」という理由で昇進・昇給できない
続いて、退職理由その2。
優秀な社員でも、「まだ若いから」という理由で昇進・昇給できない。
私の部署ではないのですが、退職(転職)してしまった若手社員の話をします。
「彼」の部署は、私の部署と接点があったので、仕事で顔を合わせたり、電話で打ち合わせたりすることがたびたびありました。
仕事ぶりは非常に優秀で、上司にも認められていたようですし、私の部署でも「アイツはできるなぁ」と評判でした。
ところが……優秀な仕事ぶりが、昇進や昇給につながりません。
残念ながら鉄道の現場では、「若くて優秀な人を抜擢」という概念がほとんどありません。
旧態依然とした年功序列制度が、まだまだ幅を利かせています。
「若くて経験不足だから」という理由で、優秀な社員が上に行けない例が山ほどあります(ウチの会社だけかもしれませんが……)。
自分の仕事ぶりが、昇進や昇給という目に見える形で評価されない。
そのあたりで、彼は悩んでいたようです。
さらに、2人目のお子さんが産まれて、現在の給与では大変になってきた。
結局、彼はもっと給与の高い会社に転職してしまいました。
彼の転職は、私の部署でも惜しむ人が多く、「あんな優秀な人を手放すなんて会社もバカだなあ」という評判でした。
ちなみに、彼とまだ連絡を取っている同僚によると、転職先で元気にやっているそうなので、そこは救いです。
「仕事がきついから」という理由で辞めるケースは少ない
退職に至る理由を二つほど挙げてみました。
もちろん、退職理由は人それぞれですから、他にも理由はあります。
たとえば、地元に戻らなければいけなくなったので、そちらの鉄道会社に転職した人もいます。
いずれにしても、本記事で強調しておきたいのは、仕事がきついから辞めるケースは少ないということです。
「鉄道の仕事に耐えられるのか?」と心配している人には、杞憂と申し上げておきます。
まとめ~「自分に務まるか・耐えられるか?」は心配しなくていい~
長くなりましたが、まとめましょう。
- 異業種から鉄道会社(運輸現業職)に転職する道は、ちゃんと開かれている
- 24時間365日のシフト制・オフの体調管理・人間関係の三点がきつい
- しかし、仕事がきつくて辞めるケースは少ない
運輸現業職は決して楽ではないですが、結局、大部分の社員は辞めずに働いています。
つまり、「自分に務まるか・耐えられるか?」はさほど心配せずともよいわけです。
鉄道会社で働く夢をあきらめきれないけど、やっていけるかどうか不安。
情報が少なくて実情がわからず、転職活動の一歩が踏み出せない……。
本記事が、そんな悩みを解決する材料になれば、筆者としてこれ以上嬉しいことはありません。